研究概要 |
平成23年度は,以下の3つの検討を行った。得られた知見は以下の通りである。 (1)社交不安障害の潜在的・顕在的記憶構造の変容過程の検討 暴露法と認知行動療法という治療的介入により潜在的・顕在的記憶構造にどのような変容が認められるかについて,データの追加を行い安定した結果が得られた。暴露法・認知行動療法ともに,顕在的記憶構造の結びつきは低下していたが,潜在的連合の低下は認められなかった。治療的介入法による違いはないが,顕在的記憶構造が先に変化し,それに続いて潜在的記憶構造が変化する可能性が示唆された。 (2)社交不安障害の注意過程に関する検討 事象関連電位(ERP)を用いて,社交不安障害の内的・外的情報に対する注意バイアスの検討を行った。外的情報として文字を呈示し,内的情報として振動を手に与え,どちらの刺激が呈示されたのかを判断させた。その結果,外的情報に対する初期ERPに社交不安による違いは認められないが,高不安者は低不安者よりも内的情報である振動に対してN140成分が大きいことが示された。不安が喚起されていなくても,情報処理の初期段階で,内的情報へのバイアスが存在することを明らかにした (3)潜在的・顕在的自尊心の不整合が適応に及ぼす影響の検討 潜在的・顕在的自尊心の不整合がストレス状況における適応性に及ぼす影響を検討した。自我脅威状況における主観的なストレス反応は顕在的自尊心と関係していたが,生理反応や課題の重要度認知は潜在的自尊心と関連していた。潜在的自尊心の高さが課題の重要度認知を高め,解決に向けて努力することで自律神経系活動を高め,不適応に結びつくと考えられる。潜在的自尊心と顕在的自尊心の不一致ではなく,潜在的自尊心の高さが不適応に関連していることを明らかにした。 以上のように,情報処理過程における潜在的側面が不適応に関連している知見が得られた。
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