勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)においては、全てのおとなメス(約65頭)を対象とした毛づくろいのデータをのべ約2500にわたり記録し、前年までのデータと比較した。老化に伴って、高齢メスは、末娘との毛づくろいがより集中しやすい傾向、さらに、頻繁ではなくても、10年以上の毛づくろい関係が継続している異血縁の高齢メスペアの存在などが明らかになってきた。また、親しい毛づくろい相手が死亡等で、集団からいなくなった時、高齢メスであっても新しい毛づくろいパートナを獲得すること、あるいは、若メスが母を亡くしたことによって、毛づくろい関係が急速に広がる事実なども確認した。さらに、高齢の祖母が、母不在の2週間にわたって生後2ヵ月半の孫の世話をしたこと、母の連続出産によって母からの授乳を受けられなくなった1歳の孫に対して、高齢祖母が授乳を含む世話行動を開始したことなどの新しい事実も記録できた。ゴリラについては、これまでに収集した昼間の放飼場での近接関係のデータと、夜間の居室での同室割合の関係についての分析を行い、昼間と異なる夜間の居室での近接パターンが存在することが明らかとなった。さらに、霊長類以外の哺乳類における長期の社会関係の様相を把握するため、クロサイの行動研究も追加して実施した。特に、霊長類の子育てパターンと単独性のクロサイの飼育下での子育てペターンの違いを把握することに努めた。単独性であるがゆえに、クロサイの子どもは母との近接頻度が成長してもほとんど減少しなかった。この事実は社会集団の中で、母とだけでなく他の集団メンバーと関わりながら成長するニホンザルやゴリラとは大きく異なることが明瞭となった。
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