勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)においては、全てのおとなメス(約60頭)を対象とした毛づくろいのデータをのべ約2200バウト記録し、前年までのデータと比較した。高齢メスは、末娘との毛づくろいがより集中しやすい傾向、さらに、頻繁ではなくても、10年以上の毛づくろい関係が継続している異血縁の高齢メスペアの存在などが明らかになってきた。また、2010-2011年の冬季の豪雪に伴って、4頭の高齢メスが死亡した。これらのメスと毛づくろい関係にあったメスが、新しい毛づくろいパートナー獲得の状況の一部を把握することができた。たいていは、死亡した個体の血縁メスとの毛づくろいを新しく展開し始めていた。 ゴリラについては、これまでに収集している1997年からの放飼場での近接関係のデータと、早朝の居室での同室割合の関係についての分析を行い、昼間の放飼場と総長の居室での近接関係が必ずしも一致しない傾向が見出された。また、生後3歳までの子どもゴリラを持っている母ゴリラと集団のリーダーオスとの関係は、従来の報告ほど、密接でないことも明らかになった。 さらに、霊長類以外の哺乳類における長期の社会関係の様相を把握するため、追加研究として実施しているクロサイの母子関係の観察が生後2年目に入った。霊長類の子育てパターンと単独性のクロサイの飼育下での子育てパターンの違いを数値データで確認することができるようになった。単独性であるがゆえに、クロサイの子どもは1歳を過ぎても、母との近接頻度が成長してもほとんど減少しなかった。この事実は社会集団の中で、母とだけでなく他の集団メンバーと関わりながら成長するニホンザルやゴリラとは大きく異なることが明瞭となった。
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