研究概要 |
今年度は「聴覚が音節端点を検出する仕組みの研究」に特に重点を置いて研究を進めた。具体的成果としては,英独仏日語に加えて,北京語,広東語,スペイン語についても分析を行い,従来得られた結果,すなわち,臨界帯域フィルターを通した音声のパワー変化について因子分析を行うことにより,言語間で共通する3因子が抽出され,この3因子によって音声を4帯域に分割できることを,もう一つのラテン語系言語であるスペイン語,音調言語である中国語も含めて確認することができた。このことには,従来の結果をさらに強固なものにしただけではなく,音調言語においても,非音調言語と同じ周波数帯域を用いて,音節の知覚に必要なパワー変化の情報が伝送されていることを示した意義がある。さらに雑音駆動音声を用いた知覚実験により,これらの帯域におけるパワー変化情報のうち,下から2番目の帯域の情報が,特に帯域周波数に対する依存性が強く,別の帯域のパワー変化と混合したり,交換することによって,音声全体の明瞭性が大幅に低下し,ほとんど聞き取りが不可能になることを見いだすことができた。このことから,音声のパワー変化の情報は,帯域によって周波数依存性が異なることが明らかとなり,今後,聴覚が音節端点を検出する仕組みについて考え,実験を行ううえで,必要不可欠な手がかりが与えられたことになる。また,若年健聴者において,残響による音声の聞き取りの低下がどのように生ずるのかを,小学校の教室における授業の聞き取りという実環境において調査し,予備的な結果を得た。
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