研究概要 |
研究の結果,日本・韓国・中国・台湾のアジア諸国に共通して規制緩和・評価制度の導入・資源配分の変化を特徴とするシステムレベルの市場化政策,及び法人化と機関の自律性拡大という機関レベルの政策の特徴が明らかになった(羽田貴史,高益民,黄福涛,金美蘭,湯尭,楊瑩)。これを支える制度的原理はまだ流動的であり,中国における高等教育機関の法的地位に関する論の曖昧さ(労凱声),日本における法人制度の制度設計などから,その課題も指摘された。市場化政策がもたらす一方の問題は,高等教育の公共性の揺らぎであり,政府など設置主体が持つ公共性から演繹されるのではなく,高等教育が依存する知の公共性を含め,市場がもたらす新たな公共性の意味と,それが成立する条件についても明らかになった(サイモン・マージンソン)。欧米諸国で進行してきた市場化の現実から,市場の持つ社会性を「社会市場」としてとらえる見方も示された(大森不二雄)。同時に,市場化は,グローバリゼーションとこれに対応した質保証及び質の向上と結びついており,高等教育のグローバル化が,国民国家のレベルにおける公共性とは異なる次元で公共性を確証することを求めており,これが市場的形態を取って減少することは必然であることも指摘された。個別には台湾の政策の特質を検討した。最後に,市場の下での公共性維持に果たす大学団体の役割が重要であり,アメリカの大学団体と理事会の役割と課題が明らかになった。
|