「後期子ども」のエンパワメント実践に関する多面的・実証的な検討を通して、以下の知見が得られた。 (1)2010年3月に実施した全国質問紙調査は、2009年3月に実施された成人調査の枠組みを援用しつつ、とくに「後期子ども」当事者656名を対象として実施された。分析の結果、いくつかの事実が浮き彫りになった。 (a)公的な教育機関を通じた就学歴が、依然として大きく現在の経済階層を左右しているが、その中でもかなり幅がみられる。継続的に働きうる満足度の高い仕事であるかどうかによって、年収と満足度が相互強化する関係にある。 (b)家庭の「文化的」環境や学習塾通いの状況を含めて、学業生活にプラスに作用する環境に恵まれている者ほど、高い生活水準を享受している。とくに中学校以降は、自己や社会の未来についての不安がこれを左右する傾向がある。 (c)エンパワメント自己評価について、主因子分析法にもとづき、4つの因子(自己肯定性・社会有能性・関係豊饒性・自由嗜好性)が析出された。各因子を左右する諸経験について関連分析を行った。 (2)(1)でも確認されたことであるが、自治体等が構築するエンパワメント方策についての情報が当事者の経験に左右されるという実態が見られた。当事者の潜在能力を高めるという意味で、人とのかかわりを含めた教育の可能性と限界が確認された。 (3)都市部の高校のみならず、過疎化・高齢化という状況にある自治体においても、行政と教育現場とのコラボレーションによって有効な手立てが試みられている。詳細な現地調査によって、「後期子ども」のエンパワメントの可能性が探究された。 今後は、さらに各アクターのレベルで具体的に何ができるのかについて、「持続可能性」「相互変容」などの中核的概念を意識しながら理論的・実証的に検討を加えていくことが課題となる。
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