平成22年度は、明治中期初等国語読本と子どもの読み物の状況を、国語教科書を中心として探った。中心になったのは、明治期の教科書書肆の雄とも言うべき金港堂の国語教科書と、文部省の国語教科書をめぐる状況の調査と考察である。 まず、金港堂の教科書を出版研究の側面から研究した稲岡勝の成果や、文部省の教科書政策を研究した掛本勲夫などの成果の上に立ち、金港堂や文部省がどのような意図で言語教科書を作製し、それがどのような内容構成になっているのかを分析した。金港堂関係では、久松義典の『小学読本』、日下部三之助の『小学読本』、それに新保磐次の『日本読本』などを検討し、それぞれの先進性とその特徴を考察した。金港堂の教科書が伝統的な日本の言語教育の方法を摂取しながら、大衆化路線を採用し、そのことによって多くの支持を得て、販売部数を伸ばしていったことが解明された。 一方、文部省は森有礼文部大臣の構想の下、文部省に編輯局を置き、伊沢修二を中心として、西欧の言語教科書の編集理念に学んだ先進的な教科書を作りあげた。それが『読書入門』『尋常小学読本』である。その内容の分析とともに特徴のある教材についてその出典を探り、この教科書が当時のグローバルスタンダードに依拠していたことを実証した。だが、農村部の学童の就学のために実科的な「簡易科」を創設せざるを得ず、そのための『小学読本』も作製した。つまり、文部省は二系統の国語教科書を作製したのである。従来、この『小学読本』についてはほとんど研究されていなかったが、その全体像を把握して、それがどのような意味を持つのかについて考察することができた。 さらに、明治検定期の代表的な国語教科書について資料を収集し、またそれが子ども読み物である「少年書類」とどのように関係するのかについて考察する準備が整った。
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