研究概要 |
発達障害児では、障害がもつ特徴のゆえに、適切な支援がないと、自分が生きていく社会と文化に適合した知識・社会規範・価値観・行動パタン・スキルを身につける社会化や教育というプロセスそのものが、また長い人生では社会生活そのものが、子どもに強いストレスを持続的に与え、二次的障害を引き起こす結果につながる。それにもかかわらず、障害以外の面では比較的精神的に健康に成長できる子どもたちに形成される心の回復力(リジリエンシー)要因について研究を行ってきた。本年度はそのまとめの年度として、成果を広く公開し,関係者からのフィードバックをえる目的で,シンポジウム(「発達障害のある子どもの心の回復力(リジリエンシー)を考えるin OYAMA」(2011)を開催した。今年度の成果は,とくに,幼少期以降の大学生や成人の発達障害者のリジリエンシーの問題についてのものであった。この時期には,それまで形成されてきたリジリエンシーをもとに,その時点で生きている集団や環境に適応する自分なりの方策を、それが最適なものではないにしても、身につけていることが重要なリジリエンス要因であることが示唆された。また,大学などその時点で生きる社会の中の異なる構成員(たとえば,教員,事務職員,相談員,ピアである学生たち)の間には,教育システムの中で発達障害学生の学修形態にどれだけ柔軟性が許容されるかについて考え方の不一致がみられることが明らかになった。発達障害の学生に対する大学への入学に配慮が制度的になされるようになってきた現状では,この不一致が発達障害大学生のリジリエンスのカギを握る要因の一つであると考えられた。最終的に、リジリエンスは困難ではあるが,回復は可能であるという信念が社会に存在すること,さらに研究者がそれを明らかにしようとすること自体がリジリエンスの重要な要因であると考えられた。
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