(1)目的 発達障害児・者のコミュニケーション障害は、対人関係を含む社会性の障害と考えられることができ、最近の社会障害説では自閉症の1次障害と言われている。このコミュニケーション障害は、単なる言語の障害や言語をもちいての狭義のコミュニケーションの障害だけを指すのではなく、文脈や状況などのコンテクストを理解することや、その上で状況に応じた適切な表現手段や言語を選択して使う語用論等の困難さと考えられる。これは、通常の場合は経験を積むことによってスキルとして獲得されていくものであるが、発達障害児・者はこの経験値を積み上げることができにくい、とされている。そこで、できるだけ多くの考え得るコミュニケーション場面を想定した具体的な支援や指導が必要になってくるが、本研究ではそれを可能にするPC上でコミュニケーションスキルを学習させる学習支援システムを開発することとする。それを用いて多様なコミュニケーション場面を疑似体験しながら社会的コンテクストを学び理解させることで.発達障害児・者への学習効果の探求を目的としている。 (2)内容 発達障害児・者のコミュニケーションの困難さを改善する学習支援システムの開発を目指して学習支援システムを開発・作成を行う。これまでの3年間で、発達障害児・者の円滑なコミュニケーション行動を妨げている、パニック行動を喫緊に取り組むべき課題として取り上げ、アメリカのカーネギーメロン大学で開発されたCognitive Tutorをモデルにシステム開発を模索した。 その結果、今回開発したシステムは、Flashで作成したパニック・リフレクションモデル(以下、PRM)である。実際に発達障害のある人が起こしたパニック行動を題材に、パニックに至る行動をスモールステップで分析し、いくつかの行動レベルに分け、それぞれの行動場面で、自分が選択した行動以外にも選択できそうな行動を提示し、改めて行動選択を問うことでパニックに至らない行動選択があることに気づかせることをねらいとしている。実際に自分が選択した行動以外に選択できた可能性のある行動も提示することで、実際の行動選択ではパニックに至るが、いくつかの段階で実際の選択と異なる行動選択をしたならば、結果的にパニックに至らない、あるいはパニックを起こすほどひどい状態にならなくても良いかもしれない結果に至ることを学習するものである。同じパニックに至るような刺激があった場合でも、いくつかの行動レベルにおいて自分の選択した行動以外の行動を選択すれば、パニックに至らぬこともあり、もっと積極的にパニックに至らないためにはどのような選択肢を選択すれば良いか、を学ぶ良い機会になると思われる。
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