今年度、実施計画に基づき行った研究による成果は次の通りである。 1.閉リーマン面から複素フィンスラー多様体への写像に対して、コーシー・リーマン作用素に付随して、自然なエネルギー汎関数が定義される。昨年度の研究で、このエネルギ-汎関数の臨界点となる調和写像に対して、正則2次微分が対応することを証明した。また、コーシー・リーマン作用素に付随して定義されるエネルギー汎関数は、ディリクレ積分の一般化として定義される通常のエネルギー汎関数とは異なるが、複素フィンスラー多様体がケーラー条件をみたす場合には、この2つのエネルギー汎関数の臨界点が一致することを証明した。 この2つの事実を用いて、今年度は、臨界点となる調和写像に対して、特異点の除去定理を証明した。すなわち、単位円板からケーラー・フィンスラー多様体への、原点を除外して定義された調和写像は、コーシー・リーマン作用素に付随して定義されるエネルギーが有界ならば、原点まで連続写像として拡張されることを示した。 2.コンパクトで滑らかな多様体上の全Q曲率の変分問題を、とくにリーマン計量の共形変形のもとで研究し、4次元の場合を除き、全Q曲率が共形変形のもとで臨界点となる計量は、全Q曲率が定数となるものに限ることを示した。さらに、正のスカラー曲率をもつアインシュタイン計量は全Q曲率の臨界点となるが、この臨界点は体積を保つ共形変形のもとで安定である、すなわち全Q曲率の第2変分は非負となることを証明した。 3.2011年11月に、国際研究集会「Workshop on Differential Geometry and Geometric Analysis」を東北大学理学部において開催し、幾何構造に付随する変分問題の研究の現状を展望し、研究者間の情報交換を促進した。
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