研究概要 |
今年度の主な研究成果は、リーマン面のモジュライ空間の標準的なコンパクト化である「ドリーニュ・マンフォードのコンパクト化」の上に、リーマン面のすべての退化形を含む普遍族の構成に成功したことである。ドリーニュ・マンフォードのコンパクト化の上には、特異点としてノードのみを持つリーマン面(いわゆる「安定曲線」)の普遍族が乗っていると考えるのが「常識的」とされているが、「松本・モンテシノスの定理」とそれを応用した「足利による安定還元定理の精密化」をベアスの理論に組み込むことで、ドリーニュ・マンフォードのコンパクト化の上にリーマン面の「普遍退化族」が構成できたのである。ドリーニュ・マンフォードのコンパクト化の上に安定曲線の普遍族が乗っているという「認識」は、ほぼ40年間、数学界の「常識」として通用してきたもので、多くの成果を生んできた。我々の普遍族の構成は、今までの認識を全面否定するものでなく、多くの場合「精密化」するものに過ぎないが、永い間の「常識」に一見反するものなので、すぐには理解が得られないと思われる。以後、しばらく我々の得た証明を何度も検証して、誤りのないこと確かめる作業を続けたい。また、我々のこの成果については、平成21年の8月にフランスのストラスブールの研究会で発表した。また、平成22年の3月に、証明の概要を書いた短い論文のプレプリントを作り、何人かの研究者に配布した。来年度にこの短報の結果の詳細な説明を論文にまとめる予定である。 4次元多様体関連の成果として、足利-吉川により4次元のファイバー空間の符号数を担うサイクルがモジュライ空間の因子として特定された。(我々の普遍族の構成により、4次元ファイバー空間の特異ファイバーの分裂問題をモジュライ空間のレベルで論じることが可能になるはずである。) 平成22年3月8日から12日にかけて、「Branched Coverings, Degenerations, and Related Topics 2010」と題するシンポジュームを広島大学大学院先端物質科学研究科において開催(共催)した。
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