研究概要 |
4次元多様体をリーマン面が複素パラメータに沿って退化して行く「軌跡」と考えて、そのトポロジーを調べる 方法で研究した。もっとも力を入れたのは、リーマン面のモジュライ空間の「ドリーニュ・マンフォードのコンパクト化」(簡単にDMコンパクト化と呼ぶ)の上にリーマン面の「普遍退化族」が乗っていることの証明である。 この研究で苦しかったのは、この結果がDMコンパクト化に関する一般的な常識にやや反していることである。 DMコンパクト化の上にはそのような普遍退化族は存在しないというのが常識である。しかし、このような常識は次の3点に関する理解不足に起因する。(1)DMコンパクト化のオービフォールド構造(2)オービフォールド間の写像(3)リーマン面の退化に関する「松本・モンテシノスの定理(以下、MM定理という)」。特にオービフォールド間の写像については、オービフォールドを亜群(グルポイド)と考えるMoerdijk達の理論を使って切り抜けることができて、所期の存在定理はほぼ完成した。この成果はリーマン面によるファイバー構造を持つ4次元多様体の研究にフィード・バックされるはずであり、それは今後の研究課題である。 以上の成果とは別に、次のような結果を得た。ファイバー構造を持つ複素曲面について局所符号数欠損公式が完成した(分担者:足利)。この証明の過程で、従来の安定還元定理の精密化が得られた(足利)。これはMM定理の代数幾何的な解釈に基づいている。研究期間内に、MM理論の詳細論文が出版できた(Springer Lecture Notes,No.2030)また、MM理論に現れる分数ねじれの公式がデデキント和の相互律に関係していることを発見した(足利)。 3次元複素射影空間内の超曲面が直線を含めば、それを軸とする「軸性ファイバー空間」の構造が入ることを発見した(松本)。このファイバー空間の構造はレフシェツファイバー空間の対極をなす構造である。
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