研究概要 |
擬対称写像群(1次元の擬等角写像群)は単位円周上の収束群であるので,同相写像によりフックス群に共役である.フックス群が解析的有限の場合は共役を与える同相写像は擬対称写像にとれるが,一般の場合は未解決であった.共役写像を擬対称にとれることは,ニールセン実現問題の一般化のためには重要な問題である.Markovicは最近これを解決した.一方,Gardiner-Sullivanにより導入された単位円周上の対称構造(symmetric structure)の研究は,対称構造のパラメータ空間の構造の研究への道を開いた.この空間はEarle-Gardiner-Lakicにより,リーマン面の漸近的タイヒミュラー空間へと一般化され,新しいタイヒミュラー空間論が展開されるに至った。本研究課題では,もうひとつの一般化の方向,すなわち,群不変な対称構造の研究を目標としている.フックス群により不変な対称構造のパラメータ空間は普遍漸近的タイヒミュラー空間の部分空間であり,フックス群のタイヒミュラー空間の漸近的射影が埋め込まれる.フックス群の対称構造に関する剛性というものを,この埋め込まれた空間がパラメータ空間全体と一致することで定義すると,今年度の研究で示された結果は,ほとんどすべてのフックス群に剛性はないということである.はじめに述べた共役問題で言えば,対称写像群であるが,対称写像によりフックス群に共役とはならないものが存在することが示されたことになる。
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