研究概要 |
統計力学・場の理論・非平衡熱力学・生命現象トップダウンモデリングで導出される非線形偏微分方程式の解の構造を解析的に明らかにし,多粒子系平均場運動に現れる爆発・パターン形成・自己組織化などの臨界現象とその背後にある数理原理を解明する研究を継続した.定常解の安定性について,双対変分構造に基づく一般的な原理,すなわち無限小安定性から力学安定性が導出されること,非自明な解析的非線形性の下で極小臨界点が無限小安定であることを確立し,非平衡熱力学のモデル,特に粘性弾性・記憶形状・連続体熱力学の原理を組み込んだ数理モデルの解析に適用した.ハミルトニアンが階層を越えて定常解の解空間を制御する機構を循環的階層として定式化し,定常点渦乱流平均場方程式で実現されていることを明らかにした.すなわち多種類の渦度強度が決定論的に混在する場合の平均場極限に対して,劣臨界質量でTrudinger-Moser不等式を導出する一方,解の列の爆発機構,特に残余消滅を証明してこの不等式が臨界で成立する場合を取り出した.概平行渦糸系の平均場方程式を導出し,双対変分構造が存在することを明らかにした.変数係数のGel'fand方程式の多点爆発解の漸近的非退化性が対応するハミルトニアンの臨界点の非退化性と対応することを示し,循環的階層原理が成立していることを確立した.引き続きモース指数の対応に取り組み大枠の評価を確立した.また天体統計物理学で現れる空間次元3以上の粒子平均場運動方程式では制約条件と臨界指数の関係を明らかにして定常状態の量子化を示し,非定常状態に対しては¥varepsilon正則性を確立してタイプIIの爆発点の有限性を証明した.腫瘍形成に関わる細胞内タンパク質動態についてトップダウンモデリングを実施し,フィードバックの揺らぎによって浸潤突起が再現されることを確立した.反応半径に支配される化学反応を組み込んだ平均場方程式を導出し,解の漸近挙動を解明した.圧縮性流体方程式では,粘性と渦度がない場合には古典解が時間大域的に存在し得ないことを,エネルギー汎関数を用いたハミルトン形式を導入することで証明した.いくつかの生物モデルでは,そのマクロ部分でハミルトン形式が成り立っていることを明らかにし,Gierer-Meinhardt系において解が漸近的に空間一様・時間周期となる条件を明らかにした.走化性方程式では,多成分系における同時爆発と質量分離をとりあげ,新しい議論を用いて爆発点の有限性・コラプスの生成・全質量の量子化を証明し,形式計算で指摘されていた質量分離の厳密証明を与えた.また渦点に対する新しい動的平均場モデルを解析し,かなりの部分で同等な結果が得られることを証明した.領域の摂動に関するアダマール変分の計算法について簡略な解析的方法を考案し,特にLipschitz領域での解の正則性とグリーン関数の変分可能性を明らかにし,第2変分について新しい結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
国外,特に点渦乱流平均場モデルに関する循環的階層についてナポリ大学・ローマ大学との共同研究が成功し,当初の目的であったGel'fand方程式での多点爆発解での漸近的非退化性を確立するとともに,Pointin-Ludgren方程式,モース指数の対応について予測を超えて計算が進展し,動的平均場モデル研究でもツールーズ大学との連携研究で爆発機構の量子化が解明された.Hadamard変分公式の計算では,当初の計画であった数値計算への応用を実施する過程で,truction法の重要な性質が理論的に解明された.
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今後の研究の推進方策 |
近平衡での統計的平均場の動力学と,定常問題の解構造と領域のトポロジーを循環的階層の確立は理論的にも思想的にも重要な課題であるが,これまでの研究からすでに技術的に必要なものは整っていると考えられる.膨大な計算が必要となるが,平均場方程式への拡張も含めて粛々と実施していきたい.この循環的階層を確立することで研究の重点はハミルトニアンの研究に移行する.この段階を見据えて,プラズマ閉じ込め問題やGinzburg-Landau系においてハミルトニアンが果たしている役割を調査する.Schroedinger方程式とYamabe流をとりあげ,高次元でのハミルトニアンの役割,特に非線形スペクトル力学のパラダイムを解明する.乱流平均場モデリングでは概平行渦糸系,特に連続パスモデルの形式的導出を行って,これまでの数理モデルの関係を明確にする.
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