研究概要 |
パンルヴェ第VI方程式の非線形モノドロミー写像の力学系について研究した。今年度は主に, (1) ガウスの超幾何関数解の近傍におけるパンルヴェ方程式のカオス的現象, (2) マルコフ・パンルヴェ超越関数の初期値,の二点に関して研究を行った。 先ず主題(1)について述べる。パンルヴェ方程式のパラメータがアフィン・ワイル群作用の鏡映面上に乗っているとき,対応するパンルヴェ方程式はガウスの超幾何関数を用いて表される古典的な解軌道をもつことが知られている。このような特殊解はリッカチ解と呼ばれているが,非線形モノドロミー写像に関して不変部分集合になっている。今回の研究では,非初等的ループに沿う非線形モノドロミー写像が,リッカチ解軌道の任意の近傍にスメールの馬蹄力学系をもつことを観察した。これは,古典的な特殊解の近傍におけるパンルヴェ方程式の解のカオス的な振る舞いを記述するものとして注目される。この結果の報告を数理解析研究所講究録として公表するとともに,研究集会・セミナー等で発表した。 次に主題(2)について述べる。マルコフ曲面と呼ばれる三次曲面上の正の整数点を求めるディオファンタス問題は古典的によく知られている。特に全ての解が,一つの自明な解に,ある無限群を作用させて得られる軌道全体と一致することが知られている。しかしこの軌道の性質に関しては未だ解明されていないことが多々存在する。そこで,この軌道をパンルヴェ方程式を通して研究することを着想した。そして,この軌道をリーマン・ヒルベルト対応を通して,ある特殊なパンルヴェ第VI方程式の特殊な超越解芽の解析接続全体と同一視することができることを発見した。この特殊な超越関数をマルコフ・パンルヴェ超越関数と名付けた。今回の研究では,マルコフ・パンルヴェ超越関数を解とするパンルヴェ方程式に対して,そのパラメータ値を決定するとともに,更に進んでその初期点と初期値をも具体的に決定した。 もた,日本数学会年会において総合講演を行った。パンルヴェの代数解析と力学系と題して,ここ数年間におけるパンルヴェ方程式の代数幾何学・力学系的研究の総合報告を行った。
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