本年度は、銀河団のスニャーエフ・ゼルドビッチ効果を用いたハッブル定数の推定において、我々が理論的に提唱してきた銀河団ガスの温度構造と揺らぎの対数正規分布がどのような影響を与えるかを、具体的にチャンドラ衛星による30個程度の銀河団データを再解析しそれによって得られるハッブル定数を推定することで定量的な結論として発表した。その結果ハッブル定数に2割程度の系統誤差が生まれる可能性を指摘したが、これは今後の銀河団を用いた精密宇宙論において重要な意味を持つ。 またこの結果を念頭において、以前我々が発表し広く用いられている銀河団のガス・温度分布モデルをさらに進める必要を再認識した。前年度に招聘予定であったドイツのクラウス・ドラック博士を、本年度に繰り越して招聘することが実現し、その滞在中に彼の粒子法に基づく数値シミュレーションデータを用いて銀河団のモデル構築と比較検討することが可能となった。さらに、2010年9月に研究代表者がプリンストン大学に滞在した際に、レンユウ・チェン博士と格子法に基づく彼の数値シミュレーションデータを用いた共同研究を開始する合意が得られた。これは最終年度となる次年度において、本研究課題の成果をまとめ上げる上で、大きなステップになるものである。
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