銀河団やWHIMを研究するための第一段階の宇宙論的流体シミュレーションを我々は完成させたが、取り入れるべき物理過程はまだ数多く残っている。そのために、2010年10月にドイツよりKlaus Dolag博士を招聘し、計算コードに関する具体的な議論を行った。さらに、2010年7月にはイタリアのMassimo Meneghetti博士を招聘し、数値シミュレーションのデータ解析ともに共同研究を開始し、現在進行中である。ダークバリオン観測専用衛星の打ち上げに関しては、日本のみならず国際協力ミッションとして度重なる議論を積み重ね、継続的に提案を行っている。 また今年度は、以前より研究代表者らが理論的に提唱してきた銀河団ガスの温度構造と揺らぎに対する解析モデルである対数正規分布モデルを、実際のX線銀河団観測データに適用する過程で、X線衛星のデータ較正に大きな不定性があることを初めて指摘した。この結果は、銀河団を用いた宇宙論パラメータ推定において大きな系統誤差となる。そこで、この較正データの不定性が、パラメータ推定にどのような影響を及ぼすかを一般的に議論し、その一例としてスニャーエフ・ゼルドビッチ効果を用いたハッブル定数の値の信頼性について系統的な研究を行い、論文として発表した。銀河団ガスのゆらぎという観点は今まで考慮されたことがない新しい視点であり、次世代X線観測衛星でさらに追求すべきテーマを提示できたものと考えている。
|