銀河団やWHIM を研究するための宇宙論的流体シミュレーションに関して現時点でもっとも優れた粒子法コードを持っているドイツのKlaus Dolag博士に加えて、同じくメッシュ法を用いた計算の世界的権威であるプリンストン大学のRenyue Cen博士から彼らの計算結果を提供してもらい共同研究を行った。 特に、従来の観測データ解析において暗黙的に正しいと仮定されていた静水圧平衡(HSE)のもとでの質量推定がどこまで信じられるかを定量的に議論した。。HSEは広く用いられているにもかかわらず、その妥当性は必ずしも明らかにされていない。例えば、Fang et al. (2009) および Lau et al. (2009) は、同一のシミュレーションを用いて、銀河団のHSE質量と真の質量との差異は10 % 程度以下であると結論した。しかし、前者はこの差異の原因はガスの回転運動であるとした一方で、後者はガスのランダム運動であるとし、解釈が矛盾したままである。 我々は、これが彼らの用いた定式化の物理的な解釈そのものの混乱に起因していることを見いだした。具体的には、流体と銀河成分の基礎方程式にそれぞれ立ち返り、Euler方程式とJeans方程式との対応関係を明確にし、両者の正当性や解釈に矛盾が生じた原因を明らかにした。その定式化に基づいて、別のシミュレーション銀河団 (Cen 2010) を解析した。その結果、このシミュレーション銀河団においてもHSE 質量と真の質量の差異は10 % 未満となったが、その差異はガスの加速度に起因するものであることを示した。
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