本研究の目的は、現在阪大RCNPに敷設されている新型の超冷中性子(UCN)源の原理を用いた新しい中性子電気双極子能率(EDM)の測定のための開発・研究を行い、超対称性理論などの予言するEDMの値に感度を持つ新しい実験を詳細に検討、海外および特に東海村で運用が始まったJ-PARCにおいて世界最高密度のUCNを用いた新しい実験を提案することである。研究の基盤となるものは、(1)UCN源およびUCN輸送に関するシミュレーションを用いた定量的な評価、(2)中性子偏極に大きく影響を与える磁場配位の構築とその測定、(3)中性子輸送における効率的な光学輸送、(4)中性子検出器、である。平成20年度の研究において、RCNPのUCN源に関するシミュレーションをPSI研究所で開発されたGEANT4ベースの手法を改良することにより発生源内および輸送中における中性子捕獲反応、光学的反射、散乱の影響まで取り入れてできるようになった。中性子輸送光学に関しては、J-PARCのMLFのグループの知見を取り入れ、設計検討を開始した。中性子検出器に関しては、TPCをベースにした中性子検出器の検討を開始、データ収集方向に関しても波形を取りこんだDAQを完成させた。ラムゼー共鳴を用いたEDM測定装置の設計に関しては、プロトタイプの共鳴装置を構築し、データを収集するに至った。外部磁場遮蔽用のシールドを実製作し、磁場分布の精密測定を行い、当初予想していた磁場分布の解析に問題があることを見つけた。これらはH21年度に本格化する設計検討に大きく寄与する。これまでの研究成果は日本物理学会等で発表している。また、この目的を遂行するに当たって、広くこの分野の研究者の知見を集積するために自らが共同世話人となって中性子による基礎科学を目指す全国的な研究会を新しく立ち上げることができたことも大きな成果と言える
|