本研究の目的は、加速器駆動型の中性子生成に新しい手法を導入することにより「世界最高密度の超冷中性子」生成の基盤技術を築き、超対称性理論の研究を格段に推し進めるための世界に先駆けた中性子の電気双極子能率(EDM)の測定実験を提案することである。平成21年度の研究において、J-PARCにおける実験の第一次の提案を公表するに至った。これは当初の予定を越える大きな進展である。 研究実施はまず分野を横断した研究コミュニティーの創成を行い、KEK、JAEAや阪大・京大・東工大などの多くの研究者のアイデアを集約することに成功した。阪大RCNPでの知見およびJ-PARCのMLFでの低速中性子の実験手法を用い、まず基礎設計に着手し「Summary of the J-PARC UCN Taskforce」(arXiv:0907.0515)として公表した。 次に、数値シミュレーションによるUCN生成炉・輸送系・実験感度の系統誤差の検討を進めるとともに、UCN測定器の研究のためにタービンによるUCN発生装置の試作機を作成し、平成22年度の研究のための準備を進めた。 特に重要な発展としてパルス運転であることを最大限に利用した中性子収集のための特殊な輸送系の手法が発案された。この新しい手法を用いると建設中の東海村のJ-Parcを用いれば原理的にはこれまでの感度を2桁以上向上させることが可能であることが期待される。この新しい原理を用いた中性子の輸送・貯蔵を含めたUCN生成・輸送・測定装置の概念設計提案書を12月に完成させ、「Measurement of Neutron Electric Dipole Moment」(中性子基礎物理実験グループ(NOP)J-PARC・PAC-P33)として審査が開始された。研究内容および基本手法に関する高い評価を得ており、詳細提案に向けた課題の抽出に至った。
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