研究課題
本研究では、広帯域(0.1-30THz)のテラヘルツ時間分解分光によって、光生成した電子状態や格子の状態を明らかにする。特に、光誘起絶縁体-金属転移における光誘起金属状態の局在と非局在の狭間にある特異な電子状態の性質や、<100cm^<-1>の低周波格子振動の役割を、テラヘルツ領域の広帯域過渡スペクトル測定により解明する。昨年度まで、研究を進めてきた、電子強誘電性物質である二次元有機伝導体α-(ET)_2I_3に加え、同じく電子強誘電性を示す、層状鉄酸化物LuFe_2O_4や、リラクサー強誘電性を示すダイマーモット絶縁体K-(ET)_2Cu_2(CN)_3についても、近赤外励起-THzプローブ実験を行った。i)LuFe_2O_4においては、強誘電性の起源である電荷秩序の光融解とその回復のダイナミクスを、励起強度や温度を変えながら測定した。層内の電荷秩序は、光融解後数ps程度の短時間で回復するのに対し、層間の電荷秩序は、100ps程度の比較的長い時間を要する。また、ii)k-(ET)_2Cu_2(CN)_3においては、リラクサー的な誘電異常の起源である、ダイマー内の双極子の集団的な励起が、~1THz領域に存在することを発見した。さらに、近赤外光励起によって、この集団励起によるTHz応答が増大することを見出した。この結果は、これまでに報告してきた電荷秩序、強誘電性の光融解とは逆の過程、すなわち、強誘電性揺らぎの光照射による増大を意味する。ダイマーモット絶縁体では、ダイマーモット相と電荷秩序相が競合していることを考慮すると、ダイマーモット相の光融解によって、強誘電性揺らぎの起源である電荷秩序がより安定化していると考えられる。
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