単層カーボンナノチューブの大きな三次非線形光学応答を利用して光スイッチングを実現しようとする場合、励起子の実励起の緩和を高速化することが重要な課題である。本年度は、その高速化を実現する可能性がある系として二層カーボンナノチューブに注目し、フェムト秒吸収分光法を用いて、その光励起状態のダイナミクスを調べることを目指した。内側チューブの最低エネルギー励起子を共鳴的に励起した場合に、その励起子が外側のチューブに高速に移動すれば、内側チューブの最低励起子において、緩和の高速化が実現できることとなる。チューブ径の細い内側チューブは、励起子効果が大きいことから非線形光学応答も相対的に大きくなるため、この二層カーボンナノチューブは超高速非線形性を実現できる格好の舞台となる。まず、励起光を変化させた場合に、高精度の測定が可能となるようレーザーシステムの安定化と測定系の最適化を行った。他の有機半導体結晶を対象として過渡吸収測定を行い、測定系の最適化とチェックをおこなった。次に、実際に内側チューブを共鳴励起し、外側チューブの最低励起子における吸収飽和を測定したところ、その立ち上がりは極めて高速であり、100fs以内で内側チューブから外側チューブへのエネルギー移動が生じることがわかった。また、チューブ径の分布を考慮して、異なるチューブ径の内側チューブを共鳴励起したところ、それに応じて、外側チューブの吸収飽和のエネルギー位置が変化した。このことは、二層チューブ内で、内側チューブから外側チューブへのエネルギー移動が起こり、二層チューブ間でのエネルギー移動は無視できるほど小さいことがわかった。これは、二層チューブの孤立化がほぼ完全に達成されていることを示している。このように、二層チューブを使って、超高速光スイッチングを実現できる理想的な系が実現可能であることが確認された。
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