微弱な光により電気伝導性、磁性などのマクロな物性が変化する現象である光誘起相転移は、その変化が1兆分の1秒という非常に短い時間で起こることから、超高速光スイッチングデバイス等への応用が期待されている。しかしながらその現象の詳細については、その高速さゆえにほとんど分かっていない。また、これまで知られている光誘起相転移は、光照射によって他の状態へ転移した後は自然に元の状態へ戻るに任せるだけであり、能動的にオンオフの制御が出来ていなかった。そこで、本研究では、光誘起相転移過程の詳細を様々な超高速分光の手法により明らかにし、最終的にその過程を能動的に制御することを目標とした。そのために本年度は、100フェムト秒(10^<-13>秒)のパルス光源を用いた各種分光システムを開発し、特に電子格子相互作用が強いことで知られる有機伝導体(EDO-TTF)_2PF_6をモデルサンプルに、様々な過渡スペクトル測定を行った。その結果、従来考えられていたような光により生じる転移状態が熱平衡により生じる状態と同じであるという仮定が本サンプルでは正しくないことを発見した。さらに理論家との共同でその状態の詳細な帰属を行った。また、新たに発見した状態が光の強度を上げたり、パルス列励起したりすることにより別の状態へ変化する現象も見出した。この結果を利用することにより、本研究の目標である光誘起相転移の能動的制御が可能になることが期待される。現在はより短い時間領域及び長い時間領域における現象の詳細を明らかにする研究を始めている。
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