本研究では超高速光デバイスの材料として有望な強相関電子系分子性結晶の光誘起相転移現象を能動的に制御することを目的としている。これまで知られている主な光誘起相転移現象は光励起によって生ずる相が熱誘起で生ずる相と同一であり、またその時間変化も自然な緩和に任せるのみであった。しかし、光スイッチ等デバイスへの応用を考えると光誘起相の生成、緩和過程を共に光により能動的に制御する必要がある。そこで波長や時間差、励起密度の異なる複数のフェムト秒パルスを励起光として用いることにより光誘起相転移の能動的制御を目指すことを目的とする。昨年度までに100フェムト秒のパルス光源を用いた各種分光システムを開発し、特に電子格子相互作用が強いことで知られる有機伝導体(EDO-TTF)_2PF_6をモデルサンプルに様々な過渡スペクトル測定を行った。その結果、光励起後100フェムト秒後に生成する光誘起相が熱平衡状態に存在する相とは異なる状態であることを発見した。本年度はさらにこの光誘起特有の相が生じる前後に起こる現象を明らかにするために、新たに10フェムト秒パルス圧縮システム及びこれを用いた時間分解電子スペクトル測定装置、ピコ秒時間分解振動分光装置の開発を行った。これらを用いて光誘起直後に生成する20フェムト秒周期のコヒーレント振動や光誘起特有の相が生成した後200ピコ秒掛かって生成する新たな相の存在を明らかにした。
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