本研究では超高速光デバイスの材料として有望な強相関電子系分子性結晶の光誘起相転移現象を能動的に制御することを目的としている。このような現象は、フェムト(10^<-15>)秒、ピコ(10^<-12>)秒の時間領域で起こり、また分子内、分子間に複雑な相互作用を持った協同現象であるため、その解析と制御には様々なエネルギー領域の超高速分光法を必要する。そのため本年度は、まず前年度に開発した10フェムト秒分光装置の改良を行い光誘起最初期過程のダイナミクスの解明を行った。一方でピコ秒以降の遅い過程を探るため時間分解赤外振動分光装置の開発も行った。この装置は、分子振動モードのピークの時間変化を観測することにより、微妙な電荷分布や構造の変化を実時間で明らかにするものである。これを用いて数百ピコ秒の比較的遅い時間でも非平衡な分子構造変化が継続していることを明らかにした。さらに各種超高速分光法を用い主に電子格子相互作用の強い擬1次元有機伝導体において、時系列でそのダイナミクスの詳細に明らかにすることに成功した。これらの結果から、このような強相関系では光励起の後、単純な過程を経て熱平衡状態へ達するのではなく、かなり複雑なエネルギー分配の過程が存在することが分かった。そこでそのエネルギー分配過程をうまく変えることができれば、光誘起相転移過程を能動的に制御できると思われる。実際これまでに励起強度や温度により、緩和過程のルートを可逆的に変えられることも見出しており、今後ともこのような現象を利用して、最終的に本研究の目的を達成することを目指す。
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