本研究は、今後X線領域での非線形光学を広く展開していくための基盤的な研究を理論・実験両面から行うことを目的としている。初年度である平成20年度は、当初計画に従って以下の成果が得られた。 1.様々な物質に対してX線パラメトリック下方変換を効率よく測定するために、大型回折計を開発した。試料の方位を自由に変えられるように4軸回折計を基本に、通常とは異なる長尺の検出器アームによって十分なエネルギー分解能を得られるように設計した。まな試料を低温や高温にする装置を付加できるよう試料周りに十分なスペースを用意した。さらに回折計中心とビーム位置を一致させるための大型架台の製作も行った。 2.ダイヤモンド、シリコン、GaAsのK、L、M吸収端にアイドラー光が共鳴した場合について、X線パラメトリック変換に及ぼす影響を実験的に調べた。その結果、ダイヤモンドのK吸収端において2桁以上の共鳴的な増大を発見した。X線領域での非線形応答には共鳴による増大は存在しないという報告がなされていたが、本研究成果はそのような理論予測を否定するものである。今回見つかった共鳴的増大の物理的背景が解明されれば、今後大きなX線非線形効果を持つ物質の開発につながると期待される。 3.X線の2次の非線形光学効果によって波束をシフトさせる現象を理論的に発見した。具体的には、結晶中の波束に制御光を当てたときの和周波発生を調べた。その結果、制御光の位相と結晶の分散との間でBerry位相項が誘起され、制御光の位相の変化を感じて波束の位置がシフトし、シフト量は波長の数桁倍にも及ぶことが分かった。
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