研究概要 |
固体内電子の長年の基本的難問である遍歴・局在の変化と多極子転移との関連は,特に原子あたり偶数の電子数を持つ非クラマース系で現実的問題になる。我々は連続時間量子モンテカルロ法(CT-QMC)と動的分子場理論(DMFT)を組み合わせ,通常の近藤格子モデルに加えて,単重項-3重項近藤格子の秩序状態を研究した。単重項-3重項モデルの不純物状態については帯磁率,状態密度などについては研究成果を出版した。また格子モデルの秩序状態についても論文をまとめ,投稿準備中である。スクッテルダイトSmRu4P12の磁気相図は,時間反転対称性を破る秩序状態に由来する特徴ある構造があり,その実態解明が待たれていた。我々は,4重縮退した結晶場基底状態だけでなく,近接している2重縮退した励起状態が本質的に重要であることを見出した。この擬6重項を用いて主な秩序変数である八極子の成長にともなって,電荷分布の変形をともなう四極子と,さらに高次の十六極子が誘起されことを示した。本研究では,分子場理論で6個の結晶場状態から構成される可能な多極子をすべて取り入れ,SmRu4P12の磁場中の相図を半定量的に再現した。多極子物理の現状と展望について,J.Phys.Soc.Jpn.からレビューを依頼され,招待論文として出版した。本論文は7月に刊行後,半年以上にわたってJPSJのダウンロードランキングの2位(1位は鉄超伝導のレビュー論文)という好評を得,現在でも依然として高い順位にある。さらに,本研究の基礎となる量子多体系について,大学院生の教科書をまとめ,出版した。また1次元量子多体系の厳密な動力学について,英文の専門書を出版した。
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