研究概要 |
本研究の目的は,強相関電子系物質のひとつであるκ型BEDT-TTF系有機モット絶縁体に対して,これまで困難であったモット転移のキャリア数制御を,申請者らが見出したエックス線照射手法によって行うことである.本年度は,エックス線照射によるモット転移への影響が当初の提案で考えていたキャリア数の効果であるのか,あるいは乱れそのものが強相関電子系に効果的に影響を与えているのかを確かめることを主眼にして実験研究を行った. (1)照射による分子欠陥の定量,定性評価 照射により導入される分子欠陥の定量,定性的評価を行なうために分子科学研究所中村准教授と共同で照射試料のESR実験を行い,照射欠陥の量,生成部位などに関する知見を得ることが出来た.またESRの結果との比較のために静磁化測定,赤外分子振動測定(研究分担者)を行い,照射欠陥がアニオン層に選択的に出来ることを明らかにした (2)強相関金属側における乱れ効果の検証 強相関金属,超伝導体であるκ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Brに対して照射による分子欠陥,乱れを導入した結果,超伝導の抑制とともに,乱れ誘起の電子局在が現れた.これはアンダーソン的な局在であり,モット絶縁体とは異なるものである.この局在絶縁状態に圧力を印加し,バンド幅を広げ電子相間を弱めると再び金属状態が復活した.この実験結果と昨年までのモット絶縁体側への乱れ効果の双方を考慮すると,乱れによる電子局在は電子相間により増強されることを示すことができた.このような結果を踏まえてバンド幅とキャリア数に加えて乱れの程度をパラメータに加えた電子相図を提案した.
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