研究概要 |
本研究の目的は,強相関電子系物質であるκ型BEDT-TTF分子系有機モット絶縁体に対して,モット転移に対する乱れの効果の検証をエックス線照射による分子欠陥の導入制御によって行うことである.バンド幅制御型モット絶縁体に対して乱れ制御手法を確立することにより,多変数(バンド幅,キャリア数,乱れ)空間でのモット転移の臨界性と秩序相(超伝導,反強磁性)の競合変化を明らかにする.平成23年度の研究成果として1)モット転移近傍における乱れ効果に対する電子相図の構築.2)エックス線照射により結晶内に導入された分子欠陥の定性,定量的な評価があげられる. 1)乱れをパラメーターとして含む電子相図の構築 前年度までに行ったモット絶縁体とモット転移近傍の超伝導体κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Y(Y=Cl,Br)に対する分子欠陥導入による電子状態の変化を統一的な電子相図として提示した.この相図からモット転移点に接近するにしたがって乱れによる電子局在が増強されることを明らかにした. 2)エックス線照射により導入された分子欠陥の定性,定量的な特性の評価 バンド幅が広く常圧で超伝導を示す有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2にエックス線照射で導入した分子欠陥が電子状態に及ぼす影響の定量評価をドハースファンアルフェン効果測定によって行った.照射時間に対して散乱時間は大きく変化するが有効質量,フェルミ面サイズは変化しないため生成した分子欠陥は,電子状態を大きく変えることなくキャリアに対する散乱担体としてのみ働いていることを明らかにした.また超伝導に対する不純物効果として分子欠陥を増やすと転移温度を大きく抑制し,同時に欠陥は磁気的性質を持たないことを示すことでこの有機超伝導体の超伝導が非通常型d波であることを確かめた.
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