本研究課題では、重い電子系超伝導体の中でも特にU系超伝導に絞って研究を行っていく。今世紀になって、U系超伝導体の中には強磁性と超伝導が共存していることが報告された。しかしそれらの実験結果は主に巨視的な測定であり、微視的な測定はほとんど報告されていなかった。特に2007年に発見されたUCoGeでは、常圧で強磁性と超伝導の共存が観測されること、核磁気共鳴(NMR)や核四重極共鳴(NQR)研究に適したCo核が構成元素の中に含まれていることから、強磁性と超伝導の共存をミクロな立場から研究するには大変適した物質である。我々はUCoGeにおいてゼロ磁場でのCo-NQR信号を観測し、NQRパラメーターの同定を行った。多結晶試料の強磁性状態では、内部磁場を感じているサイトと感じていない2種類の信号が観測されるが、良質な単結晶試料では内部磁場を感じていないサイトの信号はほとんど見られないため、試料内のdefect等により内部磁場を感じていないサイトが生じているものと考えられる。UCoGeの強磁性状態は、試料の質に大変敏感と考えられる。低温で100%強磁性状態になっている単結晶試料を用い、核スピン-格子緩和率の測定を超伝導転移以下十分低温の70mKまで測定を行った。その結果、超伝導転移後試料の約50%程度に超伝導ギャップによる緩和率の減少が見られ、残りの50%には超伝導ギャップの影響は見られなかった。この結果は、試料全体が強磁性状態になっているものの、超伝導状態では超伝導と超伝導でない領域に分かれ不均一な状態になっているものと考えられる。ただし今回の結果は、強磁性領域に超伝導がみられていることをミクロに示した重要な結果である。
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