本研究課題では、重い電子系超伝導体の中でも特にU系超伝導に絞って研究を行う。近年、U系超伝導体の中には強磁性と超伝導が共存している物質が報告され注目を集めている。しかしそれらの実験結果は巨視的な測定がほとんどで、微視的な測定は報告されていなかった。我々は、常圧で強磁性と超伝導の共存が巨視的測定から報告されているUCoGeに着目し、Co核の核磁気共鳴(NMR)や核四重極共鳴(NQR)の測定から、強磁性と超伝導の関係をミクロな観点から調べた。今年度は主に良質なUCoGeの単結晶試料を用いてゼロ磁場Co-NQR測定を行った。良質な単結晶試料では強磁性転移後、常磁性信号が消え内部磁場を感じた強磁性信号のみが観測されるため、試料の全領域が強磁性に転移したものと考えられる。強磁性転移後は核スピン-格子緩和率の測定は強磁性信号で行い、十分低温の70mKまで測定を行った。その結果、超伝導転移後試料の約50%の領域に超伝導ギャップが開くため緩和率の減少が見られ、残りの50%には超伝導ギャップの影響は見られなかった。この結果は、試料全体が均一な強磁性状態になっているものの、超伝導状態では超伝導とそうでない領域に分かれ不均一な超伝導状態になっているものと考えられる。我々は、この不均一な超伝導状態はUCoGeの自身の持つ強磁性モーメントのために外部磁場がない状態でも磁束が形成されている「自己誘導渦糸状態」が実現している可能性を指摘した。
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