今年度はヘリウム3とヘリウム4混合気体を用いたダイリューション冷凍機を利用した極低温で測定が可能な電子スピン共鳴(ESR)装置を開発した。夏までに混合器の温度を160mKまで冷却が可能なシステムを構築し、1K以下でESRシグナルの現れる磁場が変化する量子スピン系の一つである擬一次元反強磁性体Cu-benzoateの単結晶試料の鎖方向に磁場をかけた190GHzの測定に成功し、その結果を8月にオランダで行われた低温の国際会議で発表した。また、あわせて1K以下で長距離秩序を示す一次元反強磁性体NDMAPの極低温測定を行い、同じ国際会議で結果を発表した。 その後、熱輻射フィルターを入れるなどしてさらに改良を進めて、混合器の温度を80mKまで冷却が可能であるようにし、それまで温度計が試料位置から15mmも離れていた点を改め、試料温度を直接測れるようにするために試料ホルダーの改良を行ってサンプル位置から1mmのところに温度計を入れられるようにした。その結果、Cu-benzoateの鎖に垂直な方向の温度変化がきちんと測定でき、およそ200mKまでは確実に冷却できることが明らかになった。この結果を世界的によく知られている装置開発関係の英文ジャーナルReview of Scientific Instrumentsに近々に投稿予定である。また、平成20年9月の物理学会秋季大会及び平成21年3月の物理学会第64回年次大会で発表を行い、かつ、行う予定である。今後およそ1K以下で長距離秩序をする量子スピン系や幾何学的フラストレーション系の研究を行っていく予定である。
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