研究概要 |
今年度はダイリューション冷凍機を利用した極低温電子スピン共鳴(ESR)装置に対して昨年度後半に改良を行って試料位置においておよそ100mKまでの極低温が達成できた装置を使って1K以下で長距離秩序を示す一次元ハイゼンベルグ反強磁性体NDMAP(化学式:Ni(C_5H_<14>N_2)_2N_3(PF_6))の極低温測定を行った。その結果、量子多体効果により出現するエネルギーギャップをゼーマン効果によりつぶした臨界磁場以上の磁場中、磁気秩序相での低エネルギー励起を詳細に調べることができた。これまで30mKで中性子散乱実験でしか測定されていなかった最低エネルギー励起を観測し、この磁気励起エネルギーが磁場と共に一度高くなった後、14テスラに向けて低くなる変わった振る舞いをすることを明らかにした。鎖方向における14テスラはこれまでに比熱でアノマリーが観測された磁場で、オーダーしているスピンの向きが変化する磁場になり、この磁気構造の変化に対応したものであると考えられる。この結果を磁性に関する国際会議(International Conference on Magnetism 2009, Karlsruhe, Germany)で発表した。この結果を装置開発関係の英文ジャーナルReview of Scientific Instrumentsに近々に投稿予定である。 これ以外におよそ60テスラまでのパルス磁場中でヘリウム3の減圧により0.6Kまでの極低温でESR測定ができる装置を開発した。幾何学的フラストレーション系のーつである三角格子反強磁性体NiGa_2S_4の1.3K以下のESR測定を行い、共鳴磁場がさらに低磁場側にシフトしていくことを観測した。
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