今年度は昨年度までに開発したダイリューション冷凍機を利用した極低温電子スピン共鳴(ESR)装置を用いて磁場誘起の秩序-無秩序転移を示す擬一次元イジング型反強磁性体BaCo_2V_2O_8のスピン励起を調べたが、混合ガス回収ラインが詰まってしまって思うように実験はできなかった。この系に関しては以前極低温までの比熱測定で4テスラ以上に新たな磁気秩序相が現れることがわかり、中性子散乱実験で鎖方向に磁場をかけた際にスピン密度波的な磁気秩序を示すことを明らかにしたが、その状態でのスピン励起に興味をもって極低温のESR測定を試みた。しかし残念ながらこれに関して測定に成功していない。 この他に60テスラまでのパルス磁場中で1.3Kまでの極低温でESR測定ができるESR装置の改良整備を行い、いくつかの幾何学的フラストレーション系での測定を行った。三角格子反強磁性体NiGa_2S_4の類縁物質であるNi_<0.7>Al_2S_4でESR測定を行い、帯磁率で予想された大きな異方性とは異なり、大変異方性が小さいことがわかり、現在その起源に関して調べている。また、容易軸型の異方性を有する三角格子反強磁性体Rb_4Mn(MoO_4)_2での反強磁性磁気転移温度以下でのESR測定を行い、磁化過程で予想された磁気構造で計算した共鳴モードで実験結果を説明できることが分かった。この系は実験系では初めてのイジング型異方性を有する三角格子反強磁性体で理論との比較がなされ、良い一致をみた。また、スピネル化合物HgCr_2O_4では磁場中で格子変化することが知られていたが、ESR測定と共鳴モードの解析により、磁化プラトーが観測される磁場以上で歪みが解消され等方的になることが相互作用の大きさを調べることにより明らかになった。
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