研究概要 |
(1)ブリルアンゾーン境界X点のフォノンクエンチによりプロトタイプ構造相I4/mmmから,応力場によって空間群のAbmaとBmabのスイッチが可能な強弾性相への構造相転移を起こすアルキルアミン遷移金属ハロゲン化物の単結晶育成を行い,前年度に引き続き,得られた単結晶に対し,多重極限下(低温,強地場,高圧)で熱力学量,輸送特性を測定した。 取り分け,応力場交差相関機能を検討する上で,当該物質の歪み応答を検討するのは重要である。このためこれまで弾性率の測定を試みてきたが,試料とトランスデューサを接着する適切な接着剤が見つからず成功していなかった。本年度は,ついに,MACuCおよびEACuCの弾性率測定に成功した。EACuCについては,Bmab-Pbca相転移におけるミラー面消失およびCuCl_6八面体のヤーンテラー変形に基づく歪みεと秩序変数Qの結合項がQε^2型になっていることが推定できた。一方,MACuCでは,観測に成功した縦波弾性率C_<33>および横波弾性率C_<44>何れについてもBmab-Pbca相転移の異常が殆ど観測されず,EACuCに比べて秩序変数と歪みとの結合が極めて弱いことも判明した。 (2)応力場交差相関機能マルチフェロイックの新展開として,多極子秩序が示唆され(その多極子揺らぎを媒介とするクーパー対形成によると見られる)超伝導秩序を多極子秩序温度以下の温度領域に併せ持つPrIr_2Zn_<20>に着目し,秩序変数の特定を目指して弾性率を用いた歪み応答実験を行った。着目した理由は,多極子は歪みと結合するため,応力場によって超伝導の制御も視野に入れることが出来るからである。 弾性率測定の結果,当該物質の多極子秩序は,f電子基底状態Γ_32重項の反強的4極子秩序であることが本実験により始めて確定した。
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