低温の金属基板表面に有機分子を吸着させて、励起原子ビームによるイオン化反応によって電子分光法と反応動力学的研究手法を併用して反応の立体ダイナミクスと表面化学反応に関する知見を得た。本研究では、反応の断面積が衝突エネルギーに依存してどのように変化するか(部分イオン化断面積の衝突エネルギー依存性)を観測する手法により、観測された電子状態(バンド)の帰属を確定的なものにした。具体的には、芳香族化合物を低温の銀基板に吸着させたときめ立体ダイナミクスとナトリウム原子による化学反応前後の反応物ならびに生成物を観測した。また、ハロゲン化メチル類の基板上の配向と、反応の立体ダイナミクス観測を用いて、特異なイオン化反応過程に関する知見を得た。これらの成果は国際会議(IWES2009、松島)にて発表した。 また上記の成果と関連して、分子内の電子相関効果が非常に強く、電子構造に関して殆ど未確定であった遷移金属錯体(Cr(CO)_6、(η^5-C_5H_5)Co(CO)_2、Cr(C_6H_6)_2、Fe(CO)_5)に関して、準安定励起原子ビームを用いたペニング部分イオン化断面積の衝突エネルギー依存性と高精度な量子化学計算を駆使して、イオン化状態の帰属を確定した。これらの成果は、物理化学あるいは物理系の一流国際誌に発表した。次年度のレーザーを使った光ポンピング法によるスピン偏極ビームを用いた分子の測定には、常磁性の遷移金属錯体を用いる予定にしており、開殻系の遷移金属錯体のペニング部分イオン化断面積の衝突エネルギー依存性と量子化学計算による研究を現在、進行させている。
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