本研究の目的は、ポテンシャル障壁が規則的に配列し、エネルギー極小が多重連結しあった、新しいタイプの光格子「2次元アンチドット型光格子」内へ量子気体を流し込み、非定常状態やより一般には熱的に非平衡な物理状態を生成させ、量子渦生成や量子輸送現象の詳細を解明することである。 H20年度は、本研究の基盤となる量子気体であるボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)を生成し、それをアンチドット型光格子内に誘導する技術を確立することを目標に取り組んだ。まず、原子ビーム生成用のオーブンチェンバーと原子捕獲用の光学セルを連結して超高真空システムを完成し、光学セル内で研究遂行に必要となる10のマイナス11乗台の真空度を得た。また、アナログとデジタル信号、合計64チャンネルを独立して制御できる実験シーケンスの制御プログラムを完成させ、時間分解能、チャンネル間の同期、出力の分解能などの性能を確認した。次に、冷却に必要となる半導体レーザー光源とその出力を最大1.5Wにまで増幅するための高出力半導体レーザーを製作し、発振周波数線幅が1MHz以下に狭窄化されていることを確認した。H21年度4月の時点ではまだBEC達成には至っていないが、BEC生成に必要な基盤は完成しており、すでに原子の冷却実験を開始している。アンチドット型光格子は、H20年度に購入したリングチタンサファイアレーザーにより形成される。レーザー光出力(1.8W)、発振周波数線幅(500kHz未満)ともに目標値をみたしており、夏ごろ実現予定のBECの後に備えて、ビームラインの構築も並行して行っている。 H20年度に学内で開催された研究会や幾つかの招待講演において、本研究のアンチドット型光格子が、量子渦の生成・崩壊過程や最初から渦を含んでいた気体内で量子渦から量子乱流への遷移過程などが研究できる大変興味深い実験系であるとの指摘を受けた。これから本格化する研究の進展に資する貴重な示唆となった。
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