本研究の目的は、ポテンシャル障壁が規則的に配列し、エネルギー極小が多重連結しあった、2次元アンチドット型光格子内へ量子気体を流し込み、非定常状態やより一般には熱的に非平衡な物理状態を生成させ、量子渦生成や量子輸送現象の詳細を解明することである。 H21年度より原子の冷却実験を開始した。オーブン内の細管によりコリメートされた^<87>Rb原子ビームを生成し、ドップラー冷却法で減速させながら光学セルに誘導し、同時に3軸方向からのトラップ光と磁場勾配を組み合わせた磁気光学トラップ(MOT)により原子を捕獲した。各種パラメーターを最適化させ、原子の誘導レートとして5X10^<8>個/s、MOT内に50μK程度の10^<8>個の原子数を得ることができた。次に、瞬間的に磁場勾配を2倍にあげ、同時にレーザーの離調を大きくし、かつ光強度を下げてMOTを圧縮し、圧縮開始から25ms後、8X10^<11>個/cm^<3>の密度を達成した。密度がピークに達した瞬間に3次元光格子を印加し、その中で偏光勾配冷却を行う。現在、この冷却の最適化に取り組んでいる。1本あたり350mW、ビーム径500μmの青方離調した光格子ビームは高出力のテーパーアンプ2台から生成し、光ポンピングを行った後、断熱冷却により原子集団を1μK程度に冷却できると考えている。この後、原子を光双極子トラップへと移行し、全光学的手法によるBECを実現して、本研究提案の中核部分であるアンチドット型光格子内での物性研究へと進む計画である。 本研究の光格子は従来にはないタイプであり、量子渦の生成や量子乱流への遷移、低次元化の影響なども研究できる非常に興味深い系であり、先駆的な実験結果を出せるよう取り組む予定である。
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