印象派の精神とは、ソフトマターの先駆的研究によりノーベル物理学賞を受賞した故de Gennes教授が、科学者を印象派画家に例えて提唱した、枝葉末節に目をつぶり、シンプルな本質をえぐりだす精神である。本年度、この精神に基づき、工学や企業の材料開発等では重要な問題であるにもかかわらず物理の立場から研究されることは少なかった濡れや破壊の問題を研究し、シンプルで直感的な理解を得ることを目的として以下の研究を行った。 I. 破壊 真珠層は、真珠の美しさの源であるだけでなく、力学強度にも貢献している。本研究代表者はドゥジェンヌと共同でこの問題を物理の問題としてはじめて取り上げ、真珠層の強靭性についてシンプルに議論した。この研究から派生した以下の研究を行った。 (1)シート状物質の破壊エネルギーを直接測定できる独創的自作装置を用い、ごみ袋の材料となっている高分子シートの破壊特性を調べた。(2)非線形ネットワーク及び真珠層を模擬したネットワークの破壊についての2次元シミュレーションを行った。(3)真珠層モデルの破壊の新しい解析解等の成果を論文にまとめた。 II. 二次元バブルの動力学 バブルの寿命は、高分子フォームやビールの泡などに関連した化学工業から火山の爆発時の溶岩にいたるまで、さまざまな場面で重要である。バブルを囲む流体薄膜の寿命は、Science誌で議論されるなどして脚光を浴びてきているが、その理解には、(A)厚みの減少、(B)破裂開始にかかわる不安定化、核生成、および、(C)破裂進行の動力学を明らかにする必要がある。我々は、2次元的な空間に閉じ込められたバブルに着目しシンプルで独創的な工夫を凝らした実験装置で高精度な測定を可能にし、(A)についての理解を深めてきた。本年度は、研究費で高速カメラを購入し、より早い動力学(B)、(C)について2種の異なる状況で調べた。 以上の研究から、様々なスケーリング法則と物理的描像が明らかになりつつある。
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