本年度は、特に火星の内部進化の数値モデリングに重点を置いた。火星は、プレートテクトニクスが起こっていないため、場所によっては初期のおよそ40億年前に形成された地表面が今も残っており、また同時に、惑星形成後10億年程度活発な火山活動が継続した。このため、火星は、惑星形成時のマグマオーシャンが初期の内部進化や火山活動にどのような影響を及ぼしたかを解明する上で格好の題材を提供している。数値モデリングの結果から、火星のマントル進化は、マグマオーシャンにより形成されたマントルの化学成層構造のマントル対流と火成活動による緩和過程として理解されることが明らかになった。すなわち、マグマオーシャンのため、火星のマントルは化学組成の異なる二つの層に分かれ、その後、上層で活発な対流が起き、この対流のプルーム活動により、その後の火山活動が起こったことを示唆する結果を得た。さらに、この火山活動によりマントルから放射性元素が地殻へ取り去られ、このマントルにおける放射性元素の欠乏が、およそ35億年前のノアキアンと呼ばれる時代の終わりに、火山活動の急速な減衰をもたらした原因となったことが推測された。得られたマントル進化と地殻成長史のモデルは、火星隕石や地殻の観察から推察されるマントル進化の描像と整合的であり、本研究で開発したマントル進化モデルが、地球型惑星内部の初期進化の特徴を正しくとらえることができることを強く示唆している。このことは、今後本研究で構築しつつあるモデルを、金星・地球など形成直後の情報がその後のテクトニックな活動によりほとんど失われてしまった惑星の初期進化に応用する上で重要な意義を持つ。
|