計画初年度である平成20年度には、新モデルの基本部分となる電磁場と粒子の時間発展方程式(マクスウェル方程式とボルツマン方程式)を自己無撞着に解くことが可能な数値コードの概念設計を重点的に行い、ドリフト運動論近似に基づく定式化および数値コード化を実施した。これまでの宇宙プラズマ現象の数値シミュレーションにおいては磁気流体モデルや、イオンの運動論効果を取り入れたハイブリッドモデルなどが主に用いられてきたが、内部磁気圏の環電流粒子のグローバルなダイナミクスを現実的な計算機リソースで再現するために、本研究では粒子軌道をドリフト近似したブラソフ方程式(ドリフト運動論的方程式)とマクスウェル方程式を連立させ、場と粒子の自己無撞着な時間発展を追跡する方程式系を新たに導いた。またこの連立方程式系を数値的に解く3次元(分布関数は5次元)のシミュレーションコードを開発し、実際に磁気流体波動が伝播する様子を再現することを確認したができた。開発に際しては、場と粒子の時刻合わせの方法や質量保存性のよいアルゴリズムの採用など、宇宙プラズマの物理素過程等に関して行われているプラズマシミュレーションの知見を応用するとともに、従来の内部磁気圏モデリングで行われているボルツマン方程式の次元をおとす近似法を参考にした。また、開発した新モデルはメモリ量よりも計算速度がボトルネックとなるため、専用のクラスター計算機システムを導入し、効果的な研究推進に必要な環境を整備した。この他、FAST衛星のデータを中心にジオスペース観測データの解析を進めた結果、環電流への酸素イオン供給に太陽風動圧変動が重要な役割を果たしていることなどが明らかとなった。
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