研究概要 |
本研究の目的は中央構造線(MTL)の掘削コアの解析を通じて(1)正確な断層帯内部構造,(2)MTLの履歴,(3)断層深部の歪集中や内陸大地震発生との関わりを解明することであり,最終年度である2010年度は,上記目的をほぼ達成できた. (1)コアの基本的記載を全深度で完成させ,断層帯内部構造を明らかにした. (2)応力逆解析による履歴の復元に基づき.領家帯マイロナイトを形成した応力場を被った後正断層性応力場.南北圧縮場,現在の応力場である東西方向の圧縮場の順に,脆性変形の応力場の変遷を経験したと推定した.さらに,変形構造と変質鉱物の解析を合わせることで,葡萄石の形成の後,正断層性の応力場を経験し,正断層性の応力場と同時期に濁沸石の形成が始まり,現在の応力場の下で終了したと推定した.なお断層深部の歪集中を考える上で重要な脆性-塑性遷移は領家帯マイロナイトを形成した応力場の中で経験している. (3)(1)断層岩の微細構造解析から,脆性-塑性遷移直上での剪断強度が30MPa未満であるのに対し,脆性-塑性遷移直下のマイロナイトの被った差応力は280MPa近く,対照的な力学的性質が明らかになった. (2)脆性-塑性遷移直下のマイロナイトについて,(1)の差応力,応力逆解析に先行研究で求められている温度圧力条件を考慮することで,具体的な応力テンソルの絶対値を決定した,これにより,マイロナイトの流動中の歪集中と応力の関係の議論が可能となった. (3)物質境界としてのMTL(深度473.9m)から下盤側の深度555mまでの岩石は著しく破砕し,とりわけ474.5mから477.25mの範囲の断層ガウジ帯の多い部分がMTLの中心部と考えられる.変質鉱物の解析からこの領域の変形温度はおおよそ150℃と推定される.一方,含有される炭質物のラマン分光解析から,周囲の変成帯に比較した,MTLの断層発熱の可能性が示唆された.
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