研究概要 |
平成23年度は,断層摩擦熱により断層岩中に生成するフェリ磁性共鳴(FMR)信号の磁気ソースを特定することを目的として,天然シデライト(FeCO_3)の真空加熱実験を実施し,ESR(電子スピン共鳴)解析及びXRD(X線回折)分析を行った。加熱時間を段階的に変化させた時に各加熱シデライト試料から得られるFMR信号のg値と吸収曲線及び一次微分曲線の線形から△H_<1/2>/△H_<pp>(半値幅/ピーク幅)比を求めた結果,圧力0.5Pa,温度350℃の条件下で5~10分間加熱した時に得られるFMR信号(g=2.118-2.164,△H_<1/2>/△H_<pp>=1.475-1.600)が野島断層帯に分布するシュードタキライトから検出されるFMR信号(g=2.129-2.239,△H_<1/2>/△H_<pp>=1.423-1.487)に最も近く,△H_<1/2>/△H_<pp>比から野島シュードタキライトのFMR信号はローレンツ型とガウス型の中間型であることが判明した。一方,XRD分析を行った結果,圧力0.5Pa,温度350℃で5~10分間加熱したシデライト試料からは非常に不明瞭なウスタイト(FeO)のピーク以外に磁性鉱物は検出されず,加熱時間の増大と共にマグネタイト、(Fe_3O_4)のピークが出現することが判明した。反強磁性体であるウスタイトからはFMR信号は検出されないので,野島シュードタキライト中のFMR信号の磁気ソースは非晶質マグネタイトであると考えられる。これまで断層岩中のFMR信号の磁気ソースとしては,主にマグネタイトやマグヘマイト(γ-Fe_2O_3)あるいは両方が考えられていたが磁気ソースを特定することは出来なかった。しかし,マグヘマイトのFMR信号はガウス型を示し,非晶質マグネタイトとは明らかに異なることが判明し,g値及び△H_<1/2>/△H_<pp>比を元に両者を区別することが可能になった。 その他本年度は前年度までに作成した走査型ESR顕微鏡を使用して,台湾チェルンプ断層掘削コア試料の断層摩擦熱の検出を行った。チェルンプ断層コア試料には黒色破砕帯が存在し,断層摩擦熱により生成されたと考えられているが,これまで行ったESR計測ではFMR信号の異常は検出されなかった。そこで今回ターゲットとするESR信号を加熱により増大する性質がある有機ラジカル(g=2.004)に変更した結果,黒色破砕帯でラジカル信号の異常が検出された。同一試料でビトリナイト反射率の計測を行った結果でも黒色破砕帯で反射率異常が検出され,主に泥質岩で構成される沈み込み帯における断層摩擦熱の検出に有機ラジカル信号が有効であることが確認された。
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