研究概要 |
オート層序学は堆積系のオートジェニックな地層地形形成過程と大規模非平衡応答の理解に根差した新しい成因論的層序学の枠組みである。本研究の目的は,モデル実験の手法により,これまで河川営力の極端に優勢なデルタだけを対象にして構築されたオート層序学を,強い堆積物分散営力のもとで成長する陸棚デルタ系へ拡張することにある。実験場所に予定していた環境科学部本館が耐震改修工事(H21年7月~H22年3月)の影響で使用できなかったため,H20年度に購入した折り畳み式実験水槽を用いた実験は見送った(交付申請書に記載)。その代替措置として,筑波大学陸域環境研究センターの連携研究者と共同で,同センターに設置されているピストン式造波装置を用いた実験により,停滞海水準のもとでの陸棚デルタの成長過程を調べた。とくに波浪を作用させた場合と作用させない場合とでデルタの挙動を比較することに重点をおいた。その結果,デルタのトップセット河川上を遡上するサイクリックステップの痕跡がデルタフォーセットの内部構造としてよく保存され,波浪営力の存在はそれを助長するように作用することが初めてわかった。高流階河床形であるサイクリックステップは上流方向に等間隔かつ周期的に発生する跳水の反映である。その存在の普遍性はよく認識されているが,跳水の遡上によって1サイクル前のサイクリックステップが浸食されるため,地層中にはもともと保存されにくいと考えられていた。しかし,本実験によって,海岸線近傍での跳水の生成とデルタフォーセットの成層構造の形成には明らかな同期性があることが明らかになった。また,この現象の発見によって,デルタトップセットとフォーセットの浸食的境界のオートジェニックな成因が説明できるようになった。波浪は跳水で巻き上げられた浮遊砂を海岸線から遠ざける機能をもつため,フォーセットの成層構造はこれにより一層鮮明になる。
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