研究概要 |
オート層序学は,堆積系のオートジェニックな地層地形形成過程と大規模非平衡応答の理解に根差した,新しい成因論的層序学の枠組みである。本研究は,強い堆積物分散営力のもとで成長する陸棚デルタ系を対象にそのオート層序学を開拓することを目的として遂行された。H22年度実施のモデル実験では,とくに高流階河床形サイクリックステップ(cyclic steps)のオート層序学的理解に力点をおいて探究を進めた。特筆すべき成果は,(1)波浪影響下のデルタ河川に生成する高流階河床形サイクリックステップの層序痕跡の解明,(2)デルタ上の沖積河川における堆積物のオートサイクリックな貯留・解放タイミングとそれにともなうデルタ海岸線の挙動の解明,の2点である。それぞれ次のように要約できる。 課題(1) デルタ河川の河口域に波浪営力が強く作用すると,河口域から放出される堆積粒子のうち細粒な浮遊砂が粗粒堆積物から分離しやすくなり,これを反映してデルタフォーセットの層理構造が鮮明化する。層理の生成周期はサイクリックステップを構成する跳水の生成周期を反映し,波浪の周期性には依存しない。非波浪条件のもとでは,サイクリックステップ出現時に生成する地層の保存は,サイクリックステップが生成しえない流量の継続時間および交互周期の長さに依存する。 課題(2) デルタ海岸線の形状は滑らかな円弧状から起伏に富んだものまで多様である。堆積物供給量と河川流量の比率(q_s/q_w)はこの海岸線形状の要因の一つとなりうる。q_s/q_wが大きくなるほど,デルタ上における堆積物の一時的貯留・一時的解放のコントラストが強くなり,海岸線は起伏に富む傾向を強める。実験結果にもとづき,天然デルタ海岸線の形状起源と前進過程とを説明するモデルを考案した。デルタ海岸線が海側へ急激に前進する際,供給河川上にはサイクリックステップが顕著に発達する。
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