研究概要 |
本研究の目的は,超高温超高圧変成相鉱物の相平衡再現実験と野外調査や岩石記載から,極限領域変成プロセスを精密に解析し,大陸地殻形成の物理的化学的条件を明らかにするために以下の研究をおこなった. 1.東南極リュツオホルム岩体スカルビークスハルゼンの珪線石ザクロ石片麻岩中のイルメナイト斑状変晶中にルチルで一部取り囲まれたFe-Mg-Feに富む包有物がアーマルコライトの仮像であり,後退時変成作用の過程で細粒のルチルとイルメナイトに分解し,さらに変成作用の最末期に一部がシュードルチルへと変化したことを明らかにした.この片麻岩の温度圧力履歴をザクロ石や石英中のTi含有量,ルチル中のZr含有量さらに珪線石中のFe2O3含有量から特定した. 2.ルチルやイルメナイトと共存するアーマルコライトの安定領域を調べる高温実験を開始した.三相共存領域が低酸素分圧下(logfO2=-15)では,高酸素分圧条件に比べて狭まりアノソバイト成分がアーマルコライトに固溶することで,三相共存領域の安定化温度が低下することを見いだした. 3.西オングル島のペグマタイトに含まれる磁鉄鉱の巨晶中にヘグボマイト,スピネル+石英,アナターゼ,ルチル,ダイヤスポア,コランダム,白雲母,紅柱石を見いだした.これらの鉱物組み合わせから,西オングル島の変成履歴を解析した. 4.変成泥質岩や高マグネシウム安山岩の8GPaにおける相平衡実験から,シリカ成分に富む単斜輝石の組成が系の総化学組成に依存することで,既存のザクロ石単斜輝石Fe-Mg交換温度計が超高圧条件では無力であることを明らかにした. 5.愛媛県新居浜市三波川変成帯東赤石岩体の石英エクロジャイトやボヘミア岩体の高圧~超高圧変成岩類の高温高圧実験や低圧高温焼き鈍し実験からザクロ石の周りに生じるケリファイトの形成過程を調べた. 成果の一部は,11th International Symposium on Antarctic Earth Scienes, 9th International Eclogite Conference 2011, Goldschmidt2011,日本地球惑星科学連合2011年大会,日本地質学会第118年学術大会,日本鉱物科学会2011年年会,第31回極域地学シンポジウムで発表するとともに学術誌に投稿し,新たな研究成果は3編の論文として現在査読中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
南極に産する高温~超高温変成岩類や,愛媛県新居浜市東赤石岩体に産する高圧変成岩類やボヘミア岩体の超高圧変成岩類など様々な地質背景を持つ変成岩試料について,高温高圧相平衡実験を実施し,岩石記載や鉱物化学分析を行うことで,変成履歴の精密解析が進んでいる.成果の一部は3編の国際誌論文として投稿し現在査読中である.以上のことから,地殻形成テクトニクスの解明にむけた研究が大きく前進した.
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今後の研究の推進方策 |
変成履歴の精密解析にむけて,23年度までは,主として,高温~超高温変成岩類の主要造岩鉱物に難溶性元素であるTiやFe^<3+>の挙動についての相平衡実験や岩石記載から変成履歴の解析を進めてきた.今後は,SiO_2やAl_2O_3など最も多量に存在する成分を固溶できないチタン酸塩鉱物の相平衡実験を進めていきたいと考えている.
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