本研究では、私たちが開発した生体高分子をまるごと量子化学計算できるフラグメント分子軌道法に基づいて、低レベル(高速)から高精度(低速)までの様々なレベルの量子(QM)・古典(MM)融合法を開発している。この方法により、対象とする系とプロパティに応じて、適切な計算方法を選択して用いることができるため、生体高分子の研究のための有用な計算手法となることが期待される。 本年度は、前年度までに開発したFMO法と古典力場(MM)との融合法であるFMO/MU計算プログラムを用いて、FMO領域MM領域の妥当な設定法を検討した。その結果、最も高速な計算を実現するために当初想定していた、官能基単位でFMO領域とMM領域を設定するやり方は精度が著しく低下するため実用的ではないことが判明した。そこで一つのタンパク質系中で、アミノ酸残基を単位として任意にFMO領域とMM領域の設定を可能にすることで高速化を達成した。最終的に、タンパク質をアミノ酸単位でフラグメントに分割し、任意のフラグメントをFMOとMMで扱い、系を取利囲む数層の溶媒和分子を有効フラグメントポテンシャル(EFP)で、さらにその外側を連続誘電体モデル(PCM)で扱うマルチレベル統合FMO法を完成させた。一方、FMO法のエネルギー勾配は従来は近似的な計算を行っていたが、これは構造最適化計算に適用可能であったが、分子動力学シミュレーションを行うためには精度が不足していることが判明した。本研究では、FMO法の完全解析微分を開発し、マルチレベル統合FMO計算全体として分子動力学シミュレーションに適用できる精度の高いエネルギー勾配計算法を開発した。これらの成果は、生体高分子のシミュレーション研究において有用な手法となることが期待される。
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