入射分子のもつ並進エネルギーや内部状態といった初期情報が、固体表面でどのように維持伝達され、表面化学反応に至るのかという量子レベルでの分子情報伝達の解明を目指して、研究を推進している。本課題では、特に入射分子の配向や配列に着目して、その表面化学反応への効果を調べている。本年度は以下の3研究項目を行った。1.高輝度放射光施設に既設の超高真空対応配向分子表面反応装置を用いて、Si表面へのNO分子の化学吸着過程の入射分子配向依存性について光電子分光法を用いて調べた。表面反応生成物の観察により、入射分子の並進エネルギーならびに表面温度に依存した分子配向効果を見出した。表面上の反応生成物に観察された初めての分子配向効果である。今後、CH_3CNやCH_3NC分子の表面化学反応における分子配向効果の観察へと発展させる最初のステップが達成できたと考えている。2.現有している金属表面研究のための反射赤外吸収分光装置の調整を行った。金属表面で、反射赤外吸収分光測定が可能な程度まで調整できたので、今後は配向分子線源と接続して分子配向効果の観察を試みる。今年度の研究により、今後Si表面研究のために現有装置をさらに改良して、多重反射赤外吸収測定を行える目処が立った。3.表面に入射する分子の配列選択用の高分解能速度選別器を作製し調整した。高分解能速度選別により分子の回転運動の回転軸が表面に平行な車輪型か垂直なヘリコプター型か制御できる。本年度は、モーター制御用の電源を作製し速度選別器の調整を行った。大気中では、安定して動作したので、さらに分子線源に接続して超高真空条件下での動作の確認を行うための装置調整も行った。また、高輝度の配列分子線発生を目指した新しい配列分子線源の設計を行った。以上の3項目の研究により今後の研究を展開する上での最初のステップはクリアできたと考えている。
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