研究課題
一般に自然界のダイナミクスには、平衡点近傍の揺らぎが重要な役割を果たしているものも多い。たとえば溶液中の高分子鎖はそのミクロブラウン運動によって、その形状を時々刻々と変化させる。またタンパク質等の生体分子も、ある程度の構造揺らぎを伴いつつ機能を発現している。短パルスレーザー光源を用いた時間分解計測手法は、化学反応ダイナミクスの検出に有効な手法ではあるが、熱揺らぎのダイナミクスのような平衡点近傍の揺らぎの測定には有効に用いることはできない。本研究では、分子運動が可能な溶液系条件において平衡点近傍の揺らぎを実時間で観測可能な、時間分解単一分子発光の観測可能な測定システムを構築、測定法を確立する事を目的とし、本年度は光学系、データ取得系を構築し解析ソフトの開発を行った。また製作した測定システムを、色素ラベルしたDNAの水中における構造揺らぎの計測に応用しその評価を行った。測定装置の光源には既存のcw-Arレーザーを用い、光検出器にはアバランシェフォトダイオードを用いた。装置の時間分解能は約1nsと比較的短いものが得られた。単一分子レベルの計測のためには共焦点顕微鏡を用い光学系を構築した。この測定装置を希薄蛍光色素溶液に応用し、色素の蛍光寿命に対応した光アンチバンチング挙動と、三重項の減衰に対応する光バンチング挙動を確認し、測定装置および解析ソフトが正常に作動することを確認した。次ぎにこの測定装置を、色素ラベルされたDNAの測定に応用した。この系では、色素蛍光はDNA内のグアニン塩基との電子移動過程によって消光される。得られたデータを光子統計に基づき解析した結果、色素とグアニン塩基が接近した構造(消光状態)と接近していない構造(発光状態)の間のコンフォーメーション変化が、マイクロ秒の時間域で進行することが明らかになった。
すべて 2008
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)
J. Phys. Chem. C 112
ページ: 11150-11157
J. Am. Chem. Soc. 130
ページ: 146S914674