研究概要 |
ダイナミックスピン系において,パルス光励起して励起三重項状態を生成し,その後の発光強度の時間発展を測定することによって励起三重項状態の高速スピンダイナミクスを観測した。 1.有機分子ベンジルの励起三重項状態に対してピコ秒・ナノ秒領域の過渡吸収測定と時間分解発光測定を行った。吸収測定では項間交差によるナノ秒領域の緩和成分を観測した。時間分解発光測定では蛍光とりん光の検出を行った。発光測定において170K以下の温度で項間交差後のスピン・格子緩和時間を測定し、その温度変化はOrbach processで説明することができた。室温付近でのスピン・格子緩和時間は100ns程度であることがわかった。 2.有機EL材料としても知られる遷移金属錯体Ru(bpy)_3において,励起後のりん光に対してフェムト秒パルスレーザーと和周波発生法を用いたピコ秒領域の超高速時間分解発光測定を行い,励起三重項状態における超高速スピンダイナミクスを明らかにした。この物質は応用上の観点から活発な研究がなされているが,常温における観測が多く,またスピンという概念に着目した研究は少ない。振動緩和に伴う10ピコ秒程度の寿命をもつ減衰成分が観測された。また,100ピコ秒領域においてスピン格子緩和による減衰成分が観測された。スピン格子緩和はこれまで緩和時間が長い8K以下の低温領域でしか観測されていなかったが,本研究では数10~100Kに及ぶ高温側の温度領域においてピコ秒領域のスピン格子緩和を観測することができた。
|